阪神大震災10年

長年連れ添った人が死ぬということを、僕は想像することができない。
 
それは、今時の若者の想像力欠如というものだけでは言い切れない、僕には見えない大きく高い壁がある。前向きに生きることが大事、つらいことは忘れて前に進もう。今の僕なら、そう思うだろう。でも、果たして実際にその状況に置かれた時に、僕は本当にそう思えるのだろうか。
 
 
阪神大震災で妻を亡くした当時70才ぐらいのおじいさんが、それから10年間、毎日2時間1日も欠かすことなく仏壇の前で妻にお経を読んでいるというのをテレビで見た。おじいさんは言った。
「この辛さを忘れてはいけない。忘れては、いけない。」
 
あれほどまでの、悲しくて美しい人間の姿を見たのは、初めてだった。
 
 

きらきらひかるもの刺さる場所、「心」。
きらきらひかる星の流れの向こう。
僕の想像の向こう。
 
新世界 / 中村一義