SAPPUKEI

今日の東京メトロ東西線の最終電車は“満員”だった。人々はその満員電車の中で誰も支え合おうとしなかった。電車の揺れと共にそれぞれがぶつかり合い、せめぎ合う。自分の位置を確保しようと、あるいは、自分の位置をとらせまいと。

現在位置の自覚をせんと
結果は容易に予想できる

ビルとビルの狭間を縫うように、青とメタリックシルバーの車体が暗い闇の中を突っ切っている。我々が進みゆく線路すら見えないあの闇の中に、僕は何かを見ようとし、と同時に自らの目をそらし続けていた。

都市ビル天狗が飛んだよ
新宿でオレはそれを見たよ
 
す風景!!生かす風景!!

他人に興味を持たない人々が超至近距離で、お互いを牽制し、己の感情を押し殺していく。が、互いをすれ違うことすらできず、肩がぶつかり合う。

殺す風景見た
のはオーサカの橋の上に
座り込んでオレはくだらん
孤独主義者だった!!

保守的な考えがいけないわけではない、譲り合いというボランティアの気持ちを強要しているわけではない、僕はただ、ただ、目の、前に、いる、その、男、そう、おまえに対して、伝えたかった、何か、重大な、真理、を。

AとBとの会話が不通
逃げ場のない貴様の苦痛

依然、肩はぶつかり合い、ひしめき合っている。身体を翻す余地はそこにはない。精神的余地がそこには存在しない。「ディスコミュニケーション」という言葉が、自分の脳に瞬時に浮かび上がる、その刹那、目の前の男は俺の耳に息を吹きかけて、こう、言い放った。
 
「肩、押すなよ、コラ。ウザいから。ウザいから。」
 
僕は酩酊したまま−−だが、その時すでに脳は覚醒していた−−目の前の男にこう言った。
 
「気持ち悪いな……」

オレを弁護するヤツがいない
その自尊心との闘いはいつまで続く?

 
あぁ、ここは、そういえば、“東京”だったな、あの、冷凍都市、そういや、そうだったな、と気が付いた時にはすでに彼は電車を降りていた。何事もなかったかのように。すべてが夢のように感じられたが、そう考えていること自体、自分の脳は酩酊のうずの中にあり、覚醒から程遠い位置にあることを知ったのは言うまでもない。冷凍都市の冷たさに気付くことすらできなかった、遠い、遠い場所。そこから見る冷凍都市はまさに、殺風景だった。