何にもない

午後8時。ぼんやりとした意識のなかで、ひどく重い身体を無理矢理に起こして、外へ出る。ひんやりとした風が頬に触れる。部屋の中と違って外の空気はどこか鋭くて、皮膚と神経を刺激し鋭敏にさせる。ふと空を見上げると、星が見えた。こっちに来て、はじめて星を見た。その星はすぐにぼやけてしまったけれど、僕はあの小さな輝きを忘れないでいようと思った。夜の風はなおも冷たくて、僕の感覚は鋭さを増した。でも、僕も星も、ひどく曖昧になってしまった。曖昧に、なってしまった。きらきらひかる街の灯りの隙間の、夜の闇に吸い込まれていくかのように。