冨樫義博がすごいのは、過去に一度燃えつきているにもかかわらず、そこからカムバックしてきたことだと思う。
冨樫義博は燃えつきない。 - Something Orange
良エントリ。僕は冨樫義博の作品の大ファン*1なので、ひとことふたこと申し上げておきたいです。
過去に何人の作家が『少年ジャンプ』で燃えつきていっただろう? 一作、二作、ヒット作を出し、あとは泣かず飛ばず、そんな作家の多いこと。
もしあなたが『ジャンプ』の読者なら、きっと、そういう作家に心当たりがあるはずだ。
→「ストップ!ひばりくん!」の江口寿史、「ハイスクール奇面組」の新沢基栄、「きまぐれオレンジロード」のまつもと泉、「忍空」の桐山光侍などなど。他にも燃え尽きた、あるいは燃え尽きかけた漫画家はたくさんいますよね。永井豪や車田正美などもそうらしいです(当時を知らないので断定はできないですが)ちゃんと調べればもっと出てくるのでは……
で、そもそもなんで"『少年ジャンプ』で燃えつき"てしまうのかというと、それは悪名高き「専属契約制度」があるから。*2かんたんにいえば、ジャンプ以外では書かせてもらえなくなるということ。専属となる代わりに安定した連載をもらえるかというと、そういうわけにはいかず、ジャンプは読者アンケート評価制度を取り入れているので、やっとの思いで連載にこぎつけたとしても才能を開花できない漫画家はたった10週で打ち切られてしまうわけです。
また、もし作品が当たって人気に火がつき始めたとしても、そこからは編集部の作品への介入が始まってしまう、と。ドラゴンボールなんていい例ですよね。なんとかうまいことやって、作品を延命させていこうとするわけですよ。そこが全ての元凶。編集部の介入によって、作品の質は低下し、作者自身の堕落を生んでしまう。
冨樫義博も、そうなっていてもおかしくなかった。いや、正確には、すでに一度燃えつきてしまっている。そう考える読者は少なくないと思う。
『幽☆遊☆白書』は、その後半、あきらかにバトル漫画の定石を飛び出していた。物語としては完全に破綻した構成ながら、しかし、圧倒的なまでのテンションを保っていたこの作品は、やがて、消え入るようにして連載終了した。
まさに冨樫義博もその犠牲者のひとりだったということです。「消えたマンガ家」という本の中で冨樫義博本人が次のように語っています。
(質問)Q.連載中一番苦しかったところは?
(冨樫)A.二回あった。一回目は暗黒武術大会で幽助と酎が闘った時、カラー進行のスケジュールで本当に体調をくずしてた。二回目は仙水と幽助が闘っていた辺り。原稿に向かうと、ハキ気がする位漫画を描きたくなくなった時期。この時位に初めてもう”幽遊"はやめようと編集に頼み込んだ。
注目すべきは二回目のほうで、つまり、精神的にも身体的にも辛い状況に陥って「やめたい」と言ったにもかかわらず、「仙水と幽助が戦っていた辺り」から最終回までの約1年ほどの連載を続けていた(もしくは続けさせられていた)ということになります。ここで冨樫は完全に燃え尽きてしまった。
しかし、ここからが冨樫にとって大きな転機となるわけですが、もう眠いんで時系列で簡単にまとめちゃいます。
ああ、なんかすげえわかりやすい(笑)この経緯があって、富樫は一度燃え尽きたあとに、カムバックした。これはぜひ皆さんに知っておいてもらいたいことです。
これまでの経緯をきちんと見ていけば、今の冨樫の状況が「必然」であることだと理解できると思います。今の休載も「必然」であると言ってしまってもよいかもしれないわけです。なぜなら、今の彼の状況はこれまでの編集部による非人道的な作為によって生み出されてしまったと考えるのは極めて妥当であるからです。なので、個人的にはたとえ休載したとしても冨樫を叩こうと思ったりはしないんですよね。
冨樫は編集部との軋轢から作者としての自由を勝ち取り、その自由な感性が充分に発揮されているからこそ他の作品とは一線を画すほどの作品の魅力に繋がっているのだと思います。やりたい放題にできる今の立場にあるからこそ、今回の休載も含めてやりたい放題にやってもらって、その分我々読者に面白い作品を提示してほしいと僕は思っています。
あと、文中で紹介した「消えたマンガ家」はかなり面白いので、ぜひ読んでみてください。特に幽遊白書ファンは必見。今回は省略しましたが、当時の冨樫義博の心の叫びが載っています。切実ですが、これを読めば今の冨樫の休載への怒りも少しは収まるかも(笑)
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